借地権とは、建物所有目的で他人の土地を借りる権利のことです。
自分の家を建築したいと考えた場合、土地を購入するという方法もありますが、他人の土地を借りてその上に建築するという方法もあります。その際に設定する権利が「借地権」です。
借地上に建てた建物を、同居のお子様の名義に変えたいとお考えの方もいらっしゃると思いますが、この場合、注意が必要となります。
今回は、そのような場合にどういったことに注意すべきかをお話させていただきますので、ご参考になれば幸いです。

目次
1 借地権の対抗が問題になるときとは?
2 借地権者名義の建物は登記があれば対抗できる?
3 建物の登記名義には要注意!
4 対抗できる借地権の範囲
5 まとめ

 

1 借地権の対抗が問題になるときとは?

 

借地権は、土地の賃貸人と賃借人との契約によって発生します。
建物の所有を目的とした借地権は、借地法や借地借家法の適用があります。

借地権の契約後に、土地の所有者(地主)が変わることがあります。
相続で地主が変わる場合は、亡くなった地主の契約関係も相続され、そのままの状態で契約が続くので、借地権者(土地の賃借人)にとって問題はありません。
しかし、第三者が土地を買い取った場合(公売や競売で買い取った場合も含みます)、「自分が新しく土地の所有者になったので、土地から出て行って下さい」という通知が来ることがあります。
土地の所有者が変わったからといって借地権が否定されたのでは、土地の上に建物を建てて生活している借地権者の権利が不安定になってしまいます。

2 借地権者名義の建物は登記があれば対抗できる?

 

法律では、借地の上の建物が「借地権者の名義」で登記されていれば、新しい土地の所有者(地主)に借地権を対抗できます。
つまり、新しい地主から、土地から追い出されることにはなりません。
誰が借地権者かは、地主との契約で決まります。契約書を確認してみて下さい。
なお、建物の登記は、新しい土地の所有者が、土地の名義変更の登記をする前にしなければなりません。
競売、公売が行われる場合には、裁判所などが差押えの登記をしますので、借地権を対抗するためには、この差押えの登記の前にしなければなりません。(競売や公売で買受が行われる前ではありません)

借地権者が建物の登記をしていれば、新しい土地の所有者は借地権者を追い出すことはできません。
新しい土地の所有者が土地の賃貸人となって契約が続くことになります。
逆に、建物の登記をしていない場合や、建物の登記が借地権者の名義になっていない場合には、借地権が否定されてしまいます。
つまり、土地から追い出されてしまいます。
この場合でも、新しい土地の所有者が、借地権を認めてくれれば問題となりませんが、そうでなければ、建物を取り壊して更地にして土地を明け渡さなければなりません。

※例外的に、新しい土地の所有者に対抗できる場合もあります。
例としては、買受人が、土地が借地で建物を借地権者が利用していることを十分承知の上で、これを追い出して土地を使用する目的で、前の土地の所有者から安い値段で土地を買い受けたという場合です。(このような場合でも裁判所が必ず借地権を認めてくれるとは限りません。事情が若干異なっている場合、証拠での証明が難しい場合もあります。)
また、売買自体が偽装ということもあります。

3 建物の登記名義には要注意!

 

建物の登記名義が借地権者の名義と違っている例として、よくあるのは、借地権者が亡くなったのに死後もその人の名義のままになっている場合です。
遺産分割協議で揉めているため名義の変更ができないこともあると思います。
ただし、亡くなった人が借地権者で、建物の登記名義もその人名義だった場合には、亡くなった人の名義のままでも、相続人は、第三者(新しい地主)に賃借権を対抗できるというのが判例です。(最高裁昭和50年2月13日)
相続の場合は、相続人が亡くなった人の権利を引き継ぐので、このような結論となります。

しかし、原則として、借地権者と建物の名義人が一致しない場合は、借地権を対抗できないというのが判例です。
例としては、借地権者が養母の名義で建物の登記をした場合(借地権者と建物名義人が一致していない)、新しい地主が登記して名義人となった後で、養母が亡くなって借地権者が、建物について養母の権利を相続したとしても、借地権を対抗できないという裁判例があります。(最高裁昭和58年4月14日)
また、建物が子ども名義でも、借地権を対抗できないとする判例もあります。(最高裁昭和50年11月28日)
建物を建て替えるときに子ども名義で建物の登記をすると、後々面倒なことになるでしょう。

ちなみに、名義だけでなく、実際に子供が建物の所有者になる場合には、借地権の無断譲渡・無断転貸の問題が起こります。
地主の承諾がないと、借地権を解除されるおそれがあります。(承諾料も、第三者に譲渡する場合よりは安くなるのが一般的ですが、支払う必要があります。)
また、借地権の贈与ということで贈与税がかかります。
これについては、諸条件が当てはまれば、相続時精算課税制度を利用して、贈与税より安い相続税で処理できる可能性があります。

地主の承諾を得て、親が賃借権者のまま、子どもが建物の所有者になり、建物の登記名義も子ども名義にした場合は、借地権の転貸になります。
この場合は、地主の承諾があるので、子どもは、正当な権利のある転借人(転借地権者)になります。
子どもは、正当な権利に戻づいて登記した建物を所有していることになるので、借地権者である親、建物所有者である子(転借地権者)ともに、第三者に借地権を対抗できると考えられます。

「建物の登記名義は、借地権者の名義にする」
この点には十分注意が必要です。

4 対抗できる借地権の範囲

 

一筆の土地に借地権を設定して、その上に建物がある場合には、その建物に借地権者名義の登記がしてあれば借地権全体を第三者に対抗できます。
問題となるのは、二筆以上の土地に1つの賃借権を設定した場合です。
二筆の土地の地主が同じ人の場合には、1つの借地契約書で、2つの土地の上に建物所有目的の借地権を設定します。
このような契約の場合には、二筆の土地の上にそれぞれ建物が建ててあれば、または、二筆の土地にまたがった一棟の建物に借地権者の登記があれば、二筆のうち、一筆が第三者に売却されたときでも、借地権の対抗ができます。

しかし、1つの契約で二筆の土地に借地権を設定したのに、二筆の内の一筆にしか建物が建っていない場合があります。
この場合、建物が建っていない方の土地が第三者に売却された場合には、その土地については借地権の対抗ができません。

例外的な場合として、建物がガソリンスタンドの例ですが、建物が建っていない方の土地もガソリンスタンドの運営のために不可欠な設備があり、その土地を買い受けた第三者も、そのことを知りながら、安く土地を手に入れたという事案について、裁判所は、その第三者はその土地の借地権について対抗要件がないことを主張できないとしました。(最高裁平成9年7月1日判決)
つまり、借地権者は建物が建っていない土地についても第三者に借地権の対抗ができるということです。
ただし、一筆の土地を借りてそこに建物を建てた後で、「建物所有目的でない契約」でもう一筆の土地を借りた場合には、その土地が第三者に売られても、例外のような形で救済されることはありません。
対抗以前の問題として、その土地には借地権が設定されていないからです。(広い意味では借地契約をしていたことになりますが、「建物の所有目的」の借地権でないと第三者に権利の主張ができません。)

5 まとめ

 

今回のお話を下の表にまとめています。

借地権の対抗が問題になるときとは? ・借地権の契約後に第三者が土地を買い取った場合(公売や競売で買い取った場合も含みます)

・相続で地主が変わる場合は、借地権者(土地の賃借人)にとって問題はありません。

借地権者名義の建物は登記があれば対抗できる? ・借地の上の建物が「借地権者の名義」で登記されていれば、新しい土地の所有者(地主)に借地権を対抗できる。

・建物の登記は、新しい土地の所有者が、土地の名義変更の登記をする前にしなければなりません。

・買受人が、土地が借地で建物を借地権者が利用していることを十分承知の上で、これを追い出して土地を使用する目的で、前の土地の所有者から安い値段で土地を買い受けたという場合は、借地権を対抗できる可能性あり。

建物の登記名義には要注意! ・原則として、借地権者と建物の名義人が一致しない場合は、借地権を対抗できない。

・亡くなった人が借地権者で、建物の登記名義もその人名義だった場合には、亡くなった人の名義のままでも、相続人は、第三者(新しい地主)に賃借権を対抗できる。

対抗できる借地権の範囲 ・一筆の土地に借地権を設定して、その上に建物がある場合には、その建物に借地権者名義の登記がしてあれば借地権全体を第三者に対抗できる。

・二筆の土地の上にそれぞれ建物が建ててあれば、または、二筆の土地にまたがった一棟の建物に借地権者の登記があれば、二筆のうち、一筆が第三者に売却されたときでも、借地権の対抗ができる。

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この記事の監修者

代表社員  柳本 良太(やなぎもと りょうた)

柳本 良太

「法律のトラブルで困っている人を助けることができる人間になりたい」という思いから18歳の時に一念発起し、2004年に宅地取引主任者試験に合格。続いて、2009年に貸金業務取扱主任者試験、司法書士試験に合格し、翌2010年に行政書士試験に合格。2010年に独立開業し、「やなぎ司法書士行政書士事務所(現:司法書士法人やなぎ総合法務事務所)」を設立し、代表社員・司法書士として「困っている人を助ける」ことに邁進する一方で、大手資格予備校講師として多くの合格者も輩出。

その後、行政書士法人やなぎKAJIグループ(現:行政書士法人やなぎグループ)を設立、桜ことのは日本語学院の開校などより広くの人のための展開を行いながら活躍中。

モットーは「顧客満足ファースト」と「すべてはお客様の喜びのために」。

 

<保有資格>

・宅地取引主任者(2004年取得)

・貸金業務取扱主任者(20009年取得)

・司法書士(2009年取得)

・行政書士(2010年取得)

<所属法人>

司法書士法人やなぎ総合法務事務所 代表社員

行政書士法人やなぎグループ 代表社員

やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役

桜ことのは日本語学院 代表理事

LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師

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