民法解説6 制限行為能力者の相手方保護・取消と無効の違い
民法総則 (No.6)
2 制限行為能力者制度
( 8 ) 制限行為能力者の相手方の保護
制限行為能力者本人は手厚く保護されていますよね。
しかし、その相手方は不安定な立場に置かれます。
そこで制限行為能力者の取引の相手方にも保護が与えられています。
1.) 制限行為能力者が詐術を用いた場合
制限行為能力者本人が行為能力者であると信じさせるために詐術を用いた場合。
取消権は行使できません。完全に有効な契約が確定します。
例:未成年者が免許証を偽造して相手方に提示した
その結果相手方が成年者と思ったなど
2.)相手方の催告権(追認するのか?取り消すのか?)
①催告
制限行為能力者の相手方は, その取引行為について, 1カ月以上の期間を定めて, 「追認するか否か」 を確答するよう催告することができます。
・追認があれば, 取り消すことができない。
→行為の有効が確定します
・取り消されれば, 「初めから無効」 とみなされる。
※催告先:保護者(法定代理人), 被保佐人, 被補助人
(制限行為能力者が行為能力者になった後の本人)
未成年者,成年後見人に対しては不可
②確答がない場合(沈黙)
催告を受けた者が, 期間内に確答を発しない場合は, 次のようにその効果が確定します。
a.)単独で追認できる者(行為能力後の本人・法定代理人)
→ 追認されたとみなす(追認擬制)
b.) 被保佐人・被補助人
→ 取消しされたとみなす(取消擬制)
( 9 ) 取消しの効果,第三者との関係,追認
1.)取消しの効果
取消しがされると,初めから無効であったとみなされる。
2.)当事者の関係 (原状回復の義務)
お互いにその行為がなかった状態に戻す義務(原状回復)。
例: 受領したお金がある場合には, 返金するのが原則です。
3.) 第三者との関係
取り消した者と第三者との関係は, 取消し原因によって異なる。
例:制限行為能力者が取り消すと, その効果を第三者にも対抗(主張)できる。
第三者は, たとえ善意であり, 登記(対抗要件)を備えていても保護さない。
※善意:ある事実(制限行為能力者である旨)を知らない事
悪意:ある事実(制限行為能力者である旨)を知っている事
制限行為能力者と第三者との関係
未成年者 (相手方) 第三者
A B C
- AB売買 ②BC売買(善意かつ対抗要件有)
- AがABの売買を取消し → Aの勝ち
※制限行為能力者Aの取消しは、善意の第三者Cに対抗できる
4.) 取消権の行使期間
追認できる時から5年
法律行為の時から20年
これらの期間を経過すると、時効によって消滅する。
5.) 追認,法定追認
①追認
法律行為を初めから完全に有効とする旨の意思表示。
追認すると, 以後, 取消しの主張はできなくなります。
- 法定追認(勝手に追認)(追認擬制)
単独で追認することができる者が,次の3つのことを行ったとき、
追認の意思表示がなくても, 「追認した」 ものとみなされる。
a.)全部または一部の履行
法定代理人が売買代金を受領した・登記の手続きをした
b.) 履行の請求
法定代理人が売買代金を請求した
c.) 取得権利の処分
売買代金請求権を第三者に売却した
重要:無効と取消しの比較
- 無効
・法律行為は初めから生じない(期間の制限なし)
・意思表示不要(初めから無効)
・追認不可(初めから無効)
・原則、第三者に対抗可能
- 取消し
・取り消すまで一応有効(期間の制限あり)
→取消し後、初めに遡って無効となる
・取消しの意思表示が必要
・追認が可能(完全に有効な法律行為となる)
第三者との関係は対抗要件になる。
取消前と取消後により帰属先が大きく異なる
※対抗要件の講座で詳しくやります
※動画と一緒にこの記事を見てもらうほうが分かりやすいです。
他の動画はこちらから→ https://youtube.com/@yanagi-law