大家さんから家賃値上げを請求されたけれど納得できず、それまでの金額で家賃を支払おうとしても受け取ってもらえない場合、賃貸物件を借りている方はどのような手段を取ることができるでしょうか。

賃貸借契約について何らかのトラブルが発生し、賃借人が賃貸人に対して賃料を支払えない状態となった場合、賃借人が賃料を「供託」することができます。

今回は賃料の供託ができる場合や手続きについて説明したいと思います。

 

目次

1 供託とは

1-1 供託の種類

1-2 供託所

2 賃料の供託の手続き

2-1 賃料が供託できる場合

2-2 供託の効果

2-3 供託賃料の還付請求

3 賃貸人にとって賃料の供託とは

4 まとめ

 

1 供託とは

供託とは、簡単に言うと金銭や有価証券を「供託所(法務局)」へ預けることです。
供託は機能によって種類が分かれますので、各種類ごとに説明していきます。

1-1 供託の種類

(1)弁済供託
金銭その他の財産の給付を目的とする債務を負担している債務者は,その債務を履行しようとしても,債権者が受領を拒んだり,債権者の住所不明によりその受領を受けることができなかったり,
あるいは債権者が死亡し,その相続人が不明である等の債務者の過失によらないで債権者を確知することができない等の理由により,その債務の履行ができないときがあります。

そのような場合に、債務の目的物を供託所に供託して、債務を免れるための供託を弁済供託といいます。
例えば,地代(家賃)を払おうとしたところ,地主(家主)にその受け取りを拒否された場合には,借主は,賃料を供託することによって,支払債務を免れることができます。

(2)担保(保証)供託
「営業保証供託」,「裁判上の担保(保証)供託」,「税法上の担保供託」等、
第三者に生じる可能性がある損害を担保・保証するために行われる供託のことです。

(3)執行供託
従業員の給与が差し押さえられた場合のように,金銭債権について裁判所から差押命令の送達を受けた場合に,当該金銭債権の債務者(以下「第三債務者」といいます。)が,その金銭債権の全額に相当する金銭を預けるために行われる供託のことです。

(4)没取供託
公職選挙法(昭和25年法律第100号)第92条による公職の立候補のため等、法の目的を実現するために,一定の額の金銭等を供託させ,一定の事由が生じたときは,供託物に対する供託者の所有権をはく奪して,これを国家に帰属させるために行われる供託のことです。

(5)保管供託
目的物の散逸を防止するために,供託物そのものの保管・保全を目的としてされる供託のことです。
例えば,銀行,保険会社等の業績が悪化して,資産状態が不良となった場合に,その財産が散らばらるのを防止するため,監督官庁が当該銀行等に財産の供託を命ずる場合の供託がこれに当たります。

1-2 供託所

供託事務を取り扱う国の機関を「供託所」といいます。
金銭,有価証券又は振替国債を供託物とする供託は,法務局,地方法務局及びこれらの支局において取り扱っています。
また,供託物が,金銭,有価証券又は振替国債以外の物品である場合については,法務大臣の指定する倉庫営業者等が供託所として供託事務を取り扱い,物品を保管するものとされています。
供託をすべき供託所については,それぞれの根拠法令によることとなりますので,実際に供託をする場合には,供託すべき供託所をよく確認する必要があります。

例えば、弁済供託の場合,債務を弁済する場所(債務の履行地)に所在する供託所です。
最小行政区画(市や町)に供託所が存在しない場合は,その地を包括する行政区画内(県)における最寄りの供託所となります。

2 賃料の供託の手続き

どのような場合に賃料の供託ができるのか、また供託するとどうなるのかを説明していきます。

 

2-1 賃料が供託できる場合

(1)貸主が、賃料の受領を拒んだとき(民法494条1項1号)
土地・建物等の借主が、地主・家主等の貸主からの賃料の値上げ要求等を不当とする場合に,相当と認める額の賃料を貸主へ提供しても、その受領を拒否されることがあります。
その場合、相当と認める額の賃料につき「受領拒否」を供託原因とする弁済供託をすることができます。

(2)貸主が、賃料を受領できないとき(同項2号)
土地・建物等の借主は,地主・家主等の貸主の不在や行方不明等により賃料の弁済をすることができないときは,当該賃料につき「受領不能」を供託原因とする弁済供託をすることができます。
貸主が制限行為能力者で弁済受領能力がなく、法定代理人や保佐人がいない場合なども含まれます。

(3)借主が、貸主が誰だか確知できないとき(同条2項)
土地・建物等の借主は,地主(家主)の死亡によりその相続人が分からなくなる等,自らに過失がないにもかかわらず,賃料を支払うべき相手が分からなくなることがあります。
そのような場合、当該賃料につき「債権者不確知」を供託原因とする弁済供託をすることができます。
ただし、貸主を確知できないことについて、借主の側に過失がある場合には、例外的に弁済供託が認められません。

 

2-2 供託の効果

民法上有効な弁済供託が行われた場合、供託時をもって、供託金に係る債権は消滅します(民法494条1項、2項)。
したがって、借主によって賃料が弁済供託された場合、供託時点以降、借主は賃貸借契約上の債務不履行責任を免れます。
具体的には以下の効果があります。

(1)遅延損害金が発生しなくなる
供託日の翌日以降は、賃料不払いに伴い遅延損害金が発生しなくなります。

ただし、供託前の時点ですでに遅延損害金が生じている場合、賃料全額の未払いを解消するためには、遅延損害金分を含めた金額をまとめて供託しなければなりません。

(2)賃料不払いを理由とする債務不履行解除ができなくなる
未払いとなっている賃料全額が弁済供託された場合、借主の債務不履行状態は解消されますので、それ以降貸主は債務不履行解除を行うことができなくなります。

ただし、供託前の段階で、貸主がすでに債務不履行解除の意思表示をしている場合には、弁済供託がなされたとしても、解除の効果が生じます。

 

2-3 供託賃料の還付請求

借主が弁済供託した供託物について、貸主が還付を請求するときは,供託物払渡請求書に必要事項を記載して,所定の添付書類と共に,供託がされている供託所に提出します。
必要な書類は以下のとおりです。

●供託物払渡請求書
●還付を受ける権利を有することを証する書面(賃貸契約書等)
●反対給付の履行を証する書面(ある場合)
●印鑑証明書(作成後3か月以内のもの。請求者が個人の場合には,運転免許証等の提示及びその写しの添付により,本人であることを確認することができるときは,省略することができます。)
●資格証明書(会社等の法人が請求するときは、作成後3か月以内の代表者の資格を証する登記事項証明書)
●承継人であることを証する書面(被供託者の承継人が請求するときは、戸籍・除籍謄本等)
●代理人の権限を証する書面代(理人によって請求するときは、委任状等) など

詳細はこちらでご確認ください。
法務省 供託Q&A(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00055.html#45)

3 賃貸人にとって賃料の供託とは

賃料の弁済供託がなされた場合、賃貸人は、還付請求を行って賃料を受け取れば問題が解決するようにも思われます。
ところが、賃料増額請求や賃貸借契約の終了に基づく明渡し請求など、単なる賃料の不払いに収まらない他の問題を抱えているときもあります。
この場合には、賃料の弁済供託をきっかけとして、問題の解決が困難になる可能性もあるので要注意です。

(1)賃借人とのコミュニケーションが取りづらくなる可能性
賃料の弁済供託をすると、賃借人としては債務不履行責任から解放され、ひと安心となります。
よって、賃借人は、賃料の弁済供託が完了すると、賃貸人からの連絡に出なくなる場合や、行方をくらましてしまう場合があります。

(2)他の請求を取り下げたとみなされる可能性あり
賃借人に対して何も意思表示をしないまま、無条件で供託金の還付を受けた場合、賃料増額請求や賃貸借契約の終了に基づく明渡し請求など、他の請求を取り下げたとみなされる可能性があります。
別の請求を維持する場合には、賃借人に対して何らかの意思表示を行っておくことをお勧めします。

4 まとめ

以上が、家賃を供託する場合についてのお話となります。下の表に今回のお話をまとめています。

供託とは 供託とは、簡単に言うと金銭や有価証券を「供託所(法務局)」へ預けること。

家賃を払おうとしたところ,賃貸人にその受け取りを拒否された場合、弁済供託ができる。

弁済供託の場合,債務を弁済する場所(債務の履行地)に所在する供託所(法務局,地方法務局及びこれらの支局)において、供託することができる。

賃料の供託の手続き 供託ができるのは、

(1)貸主が、賃料の受領を拒んだとき

(2)貸主が、賃料を受領できないとき

(3)借主が、貸主が誰だか確知できないとき

供託時点以降、借主は賃貸借契約上の債務不履行責任を免れます。

賃貸人にとって賃料の供託とは 賃借人とのコミュニケーションが取りづらくなる可能性、他の請求を取り下げたとみなされる可能性等あるので、賃貸人が還付請求をする際は注意が必要。

この記事の監修者

代表社員  柳本 良太(やなぎもと りょうた)

「法律のトラブルで困っている人を助けることができる人間になりたい」という思いから18歳の時に一念発起し、2004年に宅地取引主任者試験に合格。続いて、2009年に貸金業務取扱主任者試験、司法書士試験に合格し、翌2010年に行政書士試験に合格。2010年に独立開業し、「やなぎ司法書士行政書士事務所(現:司法書士法人やなぎ総合法務事務所)」を設立し、代表社員・司法書士として「困っている人を助ける」ことに邁進する一方で、大手資格予備校講師として多くの合格者も輩出。

その後、行政書士法人やなぎKAJIグループ(現:行政書士法人やなぎグループ)を設立、桜ことのは日本語学院の開校などより広くの人のための展開を行いながら活躍中。

モットーは「顧客満足ファースト」と「すべてはお客様の喜びのために」。

 

<保有資格>

・宅地取引主任者(2004年取得)

・貸金業務取扱主任者(20009年取得)

・司法書士(2009年取得)

・行政書士(2010年取得)

<所属法人>

司法書士法人やなぎ総合法務事務所 代表社員

行政書士法人やなぎグループ 代表社員

やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役

桜ことのは日本語学院 代表理事

LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師

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